「目からウロコの幸福学」まとめ

目からウロコの幸福学

目からウロコの幸福学

Daniel Nettleという英国ニューカッスル大学の行動・進化論ベースの心理学者による著書。自己啓発本という先入観だったが、幸福心理に関する科学的な解説があって結構勉強になる。前回のエントリ(2008-08-15 - SDM Happiness Studies - Design of Happiness -)もそうだが進化論というViewから見ると、ヒトが幸福を求め、感じるメカニズムは理解できるように思える部分もある。ただ、現代の不幸には比較、適応からの逸脱だけではなく、「何がゴールなのかよくわからない」部分に潜む不幸せ感もあるし、レベル3の幸福についての具体的な解説はなかった。
それはさておき、行動・進化論的心理学分野の文献などを読んでる中でだいぶこの分野の全体像はつかめてきた感じがする。アンケート調査に頼らざるを得ない部分はあるが、情報の蓄積・分析は想像以上に進められていて、インテリジェンスとしての精度は高いし、科学的に見ても納得できるレベルにまでは達しているといえるのではないだろうか。

以下はまとめ。前回とかぶる部分も結構ある。

  • 幸せというのは絶対的な状態ではなく、期待値との比較、他人がもっているものとの比較がこめられる
  • 幸せの三つのレベル
レベル1 レベル2 レベル3
一時的な気持ち 気持ちをめぐる判断 生活の質、Eudaimonia
喜び、楽しさ 安寧、満足 生活の充実感、潜在能力の開花
  • 下位レベルの方がより直接的、感覚的、情緒的、絶対的、計測可能。上位レベルの幸福は認識的、相対的、倫理的、政治的であり、文化的規範や価値観をより多く含む。
  • ベンサム功利主義はレベル2の幸福を最大化しようとする立場。
  • ネガティブ感情はしつこく残る。喜びが持続することはありえない。徐々に衰えていく。
  • 過去の経験をどれだけよいもの(悪いもの)と感じるかは、①ピーク時の瞬間の快感(苦痛)量、②最終時の快感(苦痛)量の平均にかかる。快感や苦痛の”総量”ではない。(ex.14℃の水の例)
  • 「健康」・・・幸せなら健康、というよりもポジティブな感情が心身の健康につながる。
  • 「性別」・・・女性のほうがネガティブな感情もポジティブな感情もどちらもやや強めに持つ傾向がある。
  • 「お金」・・・社会階級が高いほど生活満足度は高い。それは所得によるものではなく、地位や所得に対する”比較”によるものであったり、「自由度(やりたいことをできる)」ことにある。
  • 幸福の回し車:Hedonic Treadmill・・・望ましい状態をひとつ手に入れるたびに、我々はそれに慣れっこになってしまい、満足度は以前の状態に逆戻りしてしまう。このインフレは一生続く。
  • 「国」・・・GDP比の幸福度は頭打ちになる。
  • 「結婚」・・・結婚→幸せ?逆に幸せが結婚の近道じゃないか?結婚で幸福度は短期的に増大するが数年で元のレベルに戻る。つまり慣れ(適応)が見られる。死別した場合は「授かり効果」でdepressionからの適応が困難。
  • 個人の安全を脅かす事柄(食糧不足、過度の騒音、深刻な健康問題など)は慣れることが困難。所得や物質的な豊かさは慣れてしまう。結婚はその中間。
  • 人は幸福への思い込みのせいで、位置財産を沢山蓄えれば幸せになると考えるが、客観的にそうはならない。一方で健康、自主性、社会への帰属意識、良質な環境などは真の幸福をもたらすものとなる。
    • この辺は公共政策が参考にすべき点。(ex.空港建設と騒音)
  • 人の行動は幸せの経験ではなく、幸せの「思い込み」により後押しされる
  • Personalityの二分類「神経症的傾向」と「外向性」
  • 神経症的傾向」・・・不幸をより多く感じる傾向にある。芸術や政治の世界で創造性や指導力を発揮する人はこのタイプが多い。不満こそが原動力!(結局レベル2の幸福がすべてじゃないし)
  • 「外向性」・・・刺激を受けやすいタイプ。
  • 性格は直接的な影響、間接的な影響(行動に対する影響)を与える
  • 心理学者レンドルフ・ネッティ「自然淘汰は人間の幸福のことなど歯牙にもかけえいない」感情システムには「よりよい人生」という観点は含まれていない。